どれくらい時間が経っただろう。
「神代様の付き添いの方、どうぞー」
さっきとは別の看護師が、診察室のドアを開けて声を掛けてきた。日崎は、長い緊張状態に強張った足をゆっくり伸ばして、診察室に入った。
ベッドの上に身を起こした神代は、日崎を見て少し驚いていた。松波が来ていると思っていたのだろう。彼女はキャミソールの上にバスタオルを羽織っていた。スカートから覗く膝に、内出血が見えた。右肩から肘にかけて巻かれた、真っ白な包帯が痛々しかった。首にも擦れた傷跡が見える。
「右肩と、右上腕に打撲。骨には異常ありませんが、頭も打っていますし、今日は入院して一晩様子を見ましょう」
医師は、レントゲン写真を見せながら、テキパキと説明した。
「あ、の」
神代が上擦った声で医師の話を遮った。目線で、医師に向かって日崎を示した。
「後の話は、私一人で」
日崎はベッドの側、神代から背中を向けられた状態で立っていた。神代が全部言い終わらないうちに、手を伸ばして彼女の左肩に触れた。バスタオルから覗く剥き出しの肌に触れて、かすかに力を込めた。神代が口を閉じる。
日崎はそのまま、まっすぐ医師の目を見た。
「子供は大丈夫でしたか」
「……ええ、問題ありません。シートベルトをしていたのが幸いしましたね」
にっこりと笑いかけられ、日崎も微笑み返した。
神代は、ほっと息をつきながらも、日崎の顔が見られなかった。どうして知っているのか、いつ気付いたのか。そんな風に簡単に口にされると、切り出せなくなる。
「病室の用意が出来たらお呼びしますので、しばらくここで待っていて下さい」
神代は仕切りの向こうに消えていく医師と看護師に、縋る視線を向けたが伝わるはずもなかった。今二人にされては困るのに。心の整理も、気持ちの準備も出来ていない。
肩に触れたままの日崎の手のひらは、しっとりと湿っていて、熱かった。